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Piece of Mind / IRON MAIDEN
絶叫者ヨハネ ★★ (2005-11-19 17:32:00)
音楽的な転換点となった4thアルバム。第2期Iron Maidenのオープニングに当たる作品です(音楽性の変遷を手がかりにして、大まかに彼らの歴史を区切ってみると、1st〰2ndが第1期、4th〰7thまでが第2期、9th〰現在までが第3期になると思います。なお3rdと8thが移行期に当たっており、それぞれ1.5期、2.5期とするのがよいと思われます。……私の勝手な分類ですが。)

とりあえず初期の三作とは曲の雰囲気がかなり変化しています。アレンジと作曲面の方向性も同様です。20年前の作品なのに、なぜか最近のアルバムに近い気がするのは、今の曲のルーツがこの作品あたりだからかな?

それまでの暗く湿った霧が吹き払われ、陽の光が差し込んできたような感じといえばよいでしょうか。彼らにしては珍しく「熱」や「光」(温かみ、とは違いますが)といったニュアンスを感じさせる乾いた質感になっています。サウンド全般がメジャー調を帯びてきたというか、音色やコードの響きがカラフルで、夏の午後の光の照り返しを思わせるようになりました。
曲調もスピード感あふれるリフ展開で押しまくる攻撃的で緊迫感重視のスタイルから、メロディックなフレーズを主体に練りこまれた曲展開の妙を聴かせる方向へと重心が移ったようです。四作目にしてはやくも脱メタル化・楽曲重視のプログレ・ハードポップ路線が始まったよう。しかも何故か次の5thや6thよりもいっそうこの度合いが激しく、7thに近い感覚なのが面白いところ。

今作を一言でいえば、強烈なインパクトにこそ欠けるものの、どれも水準以上の良曲がそろった良質のアルバム、といったところでしょうか。自作の評価に厳しそうなハリス先生も今作の楽曲の出来栄えにはおおいに満足していたらしく、おすすめのアルバムの一枚として名を挙げていました。とくに印象的な曲をあげれば、
最近再び(20数年ぶり!)にシングルカットされ、当時を越えるヒット(!!)を記録した時を超えた名曲The Trooperをはじめ、
オープニングを飾る勇壮な打撃系雪中行軍マーチWhere Eagles Dare、
コンパクトながら重々しく崇高な威厳を感じさせるFlight of Icharus
ノリが良く切り返し満載の曲展開がライヴで真価を発揮するDie with Your Boots On、
繊細なメロディをいくつも織り合わせた異色曲Still Life(メロディアス度ではMeiden屈指の一曲)、
予兆に満ちた気配が、異界のエナジーを放射する謎の終曲 To Tame a Land (平たくいうと、RPGのラスボス曲のような「邪神復活!!」的な雰囲気です。)
など、どれも強烈にマニアックな曲想です。およそ彼ら以外にやりそうもない特殊なムード&曲調が満載で、いかにも「Maidenらしい」作風に仕上がってます。ハリス先生お気に入りの理由はこの辺りにあるのかもしれません。

余談ですが、このアルバムの曲はどれもライヴの方が断然よいです。楽曲のヴァイタリティーがアルバムとはまるっきり違います。レコードでは録音がやや硬くかすれ気味、各楽器の音の芯が捉えられていないうえ、各パートの音の配置が平面的すぎて音に奥行きがありません。おまけに、いかにもスタジオで切り張りして作ったようなぎこちなさがあります(ついでにブルースのVoも上ずり気味、はっきりいうと「ヘタ」に聞こえる所が結構あります)。この悪い録音では、楽曲本来のパワーの50%くらいしかとらえきれていないような気がします。逆にライヴ、とくに最近では、どの曲も凄いこと凄いこと……。「Early Days」ツアーでのDie with Boots Onなど、その場にいたら失神確実のものすごさです。

以上手早く「オススメです」といって終わりたい所ですが、実をいうと個人的にこのアルバムには長いことなじめませんでした。最初のうちは退屈で仕方なく、CDラックの奥の暗い所に何年も放り込まれていました。どうも刃が鈍ったというか、The Number of The Beast の終末的な緊張感が失くなって、妙にヤワな音になってしまった……、という感じでした。もしリアルタイムでこれを聴いていたら、「Meidenは死んだっっっ!!!」とかいって泣き叫んでたかもしれません。……数年後、ふと聞き返してみて、はじめて今作のよさに「目覚め」ました。

こういう個人的な事情のほかにも、上に述べたようにただでさえアクの強いこのバンドの中でも、かなり濃いめの作風であること、インパクトでは1stと3rdに大きく劣り、楽曲の魅力では6thや7thには及ばず、5thのAces Highや9thのFear of The Darkのような一撃必殺の大名曲があるわけでもない、ということを考えると、初心者にこれを勧めるのは少々ためらいを感じます。
どちらかというと、Meidenをすでに何枚か聴いて彼らの音楽に親しむようになった人が、次なるステップとして向うべきアルバム、という位置づけでしょうか。HM的フレーズを用いれば、ちょうど鋼鉄の守護者が守る城門をくぐり抜けた後に、中心にそびえる処女の神殿へ向かう巡礼者がたどる園路の踏み石のような趣きの作品といってよいでしょう。
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